【 些事 saji-bibou 備忘 】
「 ネコ 」
先日、
園庭に陥没箇所が発生した時のこと。
これから重機を入れて本格的に掘削を開始する前に、職人さんたちは、
牧師に、
「祈ってくれ」と、言う。
ある意味しごく当然のことで、
特に、土地に重機を入れる業者さんは、“信心”深い。
それというのも、この列島が属する東アジア漢字文化圏の民俗では、
土地は、カミに属するものであって、ヒトに帰するものではないから。
しかも、これから削(ほ)るのは、教会の土地、“境内地”なのだから。
そして、
そういう“神事”にきちんと時間をとれる職人さんは、
私の経験からいうと、仕事が丁寧で迅速。
聖卓の前で、祈りの時を持った。
さて、これからどうするか、
と検討していた時のこと。
当然のことだけれども、
掘れば、埋め戻さなければならない。
そうなると、
掘削して地層を撹拌してしまうわけだから、
掘ったところだけ、簡単な言い方をすれば、周囲と固さが違ってしまう。
そこで、
「転圧機」という機械で圧力をかけて固めるのだけれども、
人工的に圧力をかけても、かけきれるものではないから、
埋め戻すと、どうしても土が余る。
「余るでしょうね」、という話しになり、
私は、
「まあ、ネコ一杯ぐらいだったら牧師館の裏に投棄でいいですよ」
と言った。
そうしたら、職人さんたちが、
“あれっ”
と固まってしまった。
おっと、素人考えだったか。
「ネコ一杯ぐらいじゃあ済みませんか?」と、重ねて尋ねると、
「いや、そこじゃなくて」と、彼ら。
普通、素人さんは「ネコ」は言わない、と言われてしまった。
ああ、そっちか。
「ネコ」とは一輪車のこと。発掘の現場でも、一輪車は「ネコ」と呼ぶ。
そのことを説明しようかなと思っていると、
目の前を、
顔見知りの黒と白のブチの猫が、
悠然と通り過ぎて行った。